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2011年10月10日 19:42:08
シェーン
 映画「シェーン」のDVDを七月上旬に見ました。

 1953年の映画で、監督はジョージ・スティーヴンス、原作はジャック・シェーファー、脚本は A・B・ガスリー・Jr。主演はアラン・ラッドです。

 西部劇の中でも屈指の作品に数え上げられる有名な映画です。見ましたが、ああ、これはいいです。全てが自然にきれいに収まり、そして美しく流れていく。そして、切ない映画です。「シェーン・カムバック!」が心に染みました。



● 子供の視点と大人の世界

 映画「シェーン」ですが、一言で言うと「よくできた映画だな」という印象です。

 特に素晴らしいと思ったのは、視点と世界の剥離です。普通はこう書くと、欠点のように思うかもしれませんが、この映画では狙った通りの効果を上げています。

 本作の主人公は、流れのガンマン「シェーン」です。でも、物語の視点は違います。主人公が宿を借りて雇ってもらう、開拓者一家の息子の少年です。

 少年は世界を神話的に見ます。開拓者一家を追い出そうとしている古参の牧畜業者を悪と見なします。自分の父親とその仲間である新興の開拓者たちを正義と見なします。そして、そこに現れた、凄腕の主人公を正義のヒーローと見なします。

 しかし、ことはそれほど単純ではありません。それは、「大人」であり、外部からやって来た「第三者」である主人公にはよく分かっています。

 古参の牧畜業者は、この地方を初期に開拓した人たちです。彼らは、自分たちの権利を主張して、新参者を追い出そうとしています。

 新参の開拓者たちは、現行法に則ってやってきた人たちです。彼らは、法の上での権利を主張して、開拓地は自分たちのものであると考えています。

 主人公は、過去に多くの暴力を行使し、見てきた人間です。そして、その暴力を現在は封印しています。それは時代が変わったことを知っているからです。そして、自分が生きていくためには、過去を捨てなければならないことを理解しているからです。

 主人公は、たまたま新参の開拓者たちの側につきました。そして、その家族を愛しています。ですが、本来はどちらの立場になってもおかしくはない人物です。

 実際、物語の途中で、主人公は古参の牧畜業者のリーダーに誘われます。お前は本来、こっち側の人間だろうと。主人公は、明らかに、滅び行く暴力の時代の人間です。

 主人公は、その大人の世界の「矛盾」や「割り切れなさ」を知っています。しかし、物語の視点である少年は、物事を単純化して、神話化しようとします。この視点と世界の剥離が、本作を美しくも切ない物語にしています。

 理想と現実の違い。その矛盾を受け入れ、自己犠牲を通じて解決を図ろうとする主人公。

 そこに、子供の神話を越えた、大人の真の神話が生まれる。

「シェーン」はそういった物語だと思いました。



● 滅び行く者の美学

 ともかくシェーンが美しかったです。かっこいいというよりは、美しいという言葉の方が似合います。それは、外見ではなく、儚さがです。

 滅び行く者が、何を考え、何を選ぶか。そのことにより、輝く瞬間が誕生する。

 この映画のラストは、シェーンが去っていき、少年が「シェーン・カムバック」と叫びます。

 このラスト・シーンには、シェーンは「生きている」という説と、「死んでいる」という説があります。

 少なくともシェーンは死を覚悟して最後の戦いに出向いています。それは演出で、シェーンが墓場を通ることからも窺えます。

 私はシェーンに、散りゆく者の美しさを感じました。



● 印象的なキャラクターたち

 シェーンもよかったですが、その他の登場人物もよかったです。

 新興の開拓者のリーダーであるジョー。彼は、開拓者というよりは、農業研究者という感じで、さらに不屈の闘士を持っています。周囲の人間が自然と頼り、リーダーとなるような人物です。

 また、古参の牧畜業者のライカーもよかったです。単なる荒くれ者かと思えば実は違い、彼は彼なりの正義のために、自分の部下たちの食い扶持のために図太く生きています。

 さらに、雇われガンマンのウィルソン。全身黒尽くめで死神のような印象を与える男です。彼も格好良かったです。



● 西部劇の王道の凝縮

 西部劇と言えば、流れ者のガンマンが、流れ着いた場所の諍いに巻き込まれて、それを凄腕で解決して去っていくというのが王道だと思います。

 この映画は、その王道が凝縮された作品だと思います。そして、その上に美しい景色と豊穣な人間味を被せ、一段高いレベルの作品にしてあると感じました。



● 粗筋

 以下、粗筋です(ネタバレあり、最後まで書いています。ただ、あまりネタバレは関係のない作品です)。

 主人公は流れ者のガンマン。彼はある開拓村に流れ着く。そこで開拓団のリーダーである男性に拾われ、そこで働くことになる。開拓団のリーダーには、妻と子供がいた。妻は主人公に心を寄せる。そして、少年は主人公に憧れを抱く。

 開拓村では問題が起こっていた。古参の牧畜業者が、開拓団を追い出そうと暴力を奮っていたのだ。

 暴力で対抗すれば、その報復として相手に付け入る口実を与えてしまう。

 完全な衝突を避けるために、開拓団では反抗をしないようにしていた。主人公もその方針に従って喧嘩をしないようにする。だが、開拓団の不満は募ってきていた。

 そして衝突が始まった。牧畜業者のリーダーは、主人公の腕っ節を知り、自分の側に招きいれようとする。だが、恩義を果たすために主人公は拒絶する。

 主人公はまた、牧畜業者のことを「滅ぶべき過去の時代の人間」だと感じていた。主人公自身もそういった人間だった。

 抗争は激化して全面戦争に突入しそうになる。このままでは全てが駄目になってしまう。開拓団のリーダーは、自分一人で決着をつけるために話し合いに行こうとする。しかし、それは明らかに罠だった。

 主人公は開拓団のリーダーを気絶させ、自分一人で敵地に乗り込む。その主人公を少年が追いかける。

 主人公は激闘の末、牧畜業者を倒す。少年は、その主人公に英雄の姿を見る。主人公は少年を置いてその場を去る。少年は去っていく主人公の背中を、感謝と憧憬の眼差しで見送る。
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