映画「マイレージ、マイライフ」のDVDを七月中旬に見ました。
2009年の映画で、監督はジェイソン・ライトマン、原作はウォルター・カーン、脚本はジェイソン・ライトマンほか。主演はジョージ・クルーニー。
良作です。「サンキュー・スモーキング」(2006年)、「JUNO/ジュノ」(2007年)の監督さんです。この監督は、今後期待できそうです。
● 解雇宣告人
主人公は、経営者に代わって、社員に解雇を言い渡す、解雇宣告人です。アメリカでは、こういった職業があるそうです。
前情報の段階でその話を聞いていて、もっとえぐい話になるのかと思っていましたが、そうではなかったです。
精神的に切なく悲しいシーンがありますが、精神的にきつい話ではなかったです。
この映画の主人公を見て、私はえんどこいちの「死神くん」を思い出しました。やっていることは全然違うのですが。
本当のイメージは、たぶん「天使」なのだと思います。一年のうち三百日以上を飛行機で過ごし、地上に下りてきては、職業上の「死」を宣告する。それが主人公の職業だからです。
ただ、そんなものよりは、もっと軽口の印象の主人公ではあるのですが。
● 二人の女性との出会い
主人公は、映画の中で二人の女性と出会います。一人は、自分と同じように、出張しまくりのビジネス・ウーマンです。主人公は彼女と意気投合して、セックスだけのライトな関係になります。
もう一人は、会社の新入社員です。彼女は、コスト削減のために、ネットでの解雇宣告の導入を提案します。主人公は、その方法に反対し、会社から彼女の教育係になり、実地の経験を積まさせるように指示されます。
この新入社員が、主人公のあらゆる面での、変化の触媒になります。
まず、会社の制度の変更により、今までの働き方ができなくなる危機を迎えます。
主人公は、希薄な人間関係を好み、趣味はマイルを一千万貯めることのみです。その趣味の達成も危うくなります。
そして、新人を教育するということで、普段の仕事にお荷物が増えます。そして行く先々でトラブルが発生します。
私生活にも微妙な影響を与えます。結婚願望の強い彼女は、主人公とビジネス・ウーマンが結婚するべきだと考えます。主人公はその考え方に引きずられ、徐々にビジネス・ウーマンを、そういった対象として見始めます。
ここに「主人公の妹の結婚」というイベントが絡み、主人公は自分の人間観や、人間関係の再構築を迫られます。
なかなか上手くできているなと思いました。
● ベテランの描き方
物語は対比によって成り立ちます。
この映画の対比は、ベテランである主人公と、新人である女の子です。
この主人公の「ベテランであることを示すシーン」がよくできていました。
主人公は、解雇宣告を、マニュアルだけのものでは駄目だと考えています。そして、人生の再始動の提案までできるように、相手のことを深く知り、実際に目の前に座って話をしなければならないと主張しています。
そして、新入社員が面接をして、マニュアルどおりにしか対応できないのを見て、主人公が本物の仕事を見せます。
解雇宣告を、単なる職の終わりではなく、相手の人生で本当に望んでいたことを掘り下げ、どんな夢を過去に持っていたか、どうしてそのことを押し殺して生きてきたか、そういったことまで突っ込んで、今後の人生設計の相談に乗り、提案をします。
単なるマニュアルと書類だけの機械的な対応ではできない「仕事」を行います。
このシーンが、非常に心に残るよいシーンになっていました。
● 二十三歳
新入社員は二十三歳なのですが、二十三歳は子供だなと思いました。
ちょっと前までは大学生で、学生だったので、子供は子供なのですが、それにしてもお子様に描かれているなと感じました。
失恋して、大泣きしているシーンは、特にその印象が強かったです。
● オープニング映像
映画のオープニングは、単なるスタッフロールというだけでなく、映画のテーマを感じさせる非常にスタイリッシュな映像になっていました。
DVDには、その映像を作った少人数のスタジオのインタビューが入っていました。
こういった仕事もあるのだなと思い、興味深かったです。
● 粗筋
以下、粗筋です(終盤半ばまで書いています。ある程度のネタバレあり)。
主人公は解雇宣告人。彼は一年のうちの三百日以上を飛行機で移動する。彼の目標は一千マイルを貯めること。彼は家族や友人知人との深い関係を好まなかった。
彼は旅先で、同じように空の住人であるビジネス・ウーマンと知り合う。そして、セックス中心のライトな関係になる。
ある日彼は会社に呼び戻される。会社は新入社員を雇った。彼女は、コスト削減のために、ネットを使った解雇宣告を提案している。主人公はその方法に反対する。解雇は対面でなければならないと彼は主張する。
主人公は会社によって、新入社員の教育係に任命される。ネットでの解雇宣告導入のために、実地で訓練を積むためだ。
主人公は仕方がなく、彼女を連れて空を飛び回る。
新入社員は結婚願望の強い女性だった。彼女は恋人を追って、会社の近くに来たのだという。また、折りしも主人公の妹は結婚間近で、その準備を主人公は手伝わされていた。
主人公は、結婚ということに興味を持たざるをえない環境にさらされる。
新入社員は、主人公とビジネス・ウーマンは結婚しなければならないと主張する。その考えに引きずられて、主人公は徐々にビジネス・ウーマンをそういった対象として見るようになる。
新人研修は終わり、全米にネット解雇宣告のインフラが整う。新入社員はその陣頭指揮を執る。
だが、ネットを使ったシステムは急展開を迎える。新入社員が研修中に担当し、解雇した女性が自殺したのだ。新入社員はそのことで精神的な打撃を受ける。
そして、主人公は、ビジネス・ウーマンとの結婚を考えて、彼女の家に訪れる……。
以下、ネタバレありの感想です。
● 終盤の切なさ
終盤、主人公がビジネス・ウーマンの家を訪れた時の切なさは半端ないです。
結婚を考えて、彼女の家に行くと、そこには温かい家庭があり、彼女は仕事の時だけ、仮面を付けて、奔放な女性を演じて、ストレスを発散していたことを知ります。
主人公、しょぼーん状態です。
もうなんか切な過ぎる。
リアル生活でも結婚していない(一度結婚して離婚した)ジョージ・クルーニーなので、見る方は重ね合わせてしまいます。
● 推薦人
映画のラスト、解雇宣告会社を辞めた新入社員が就職活動を開始します。
これは普通に経緯を考えると、非常に雇い難いと思います。
元々の就職動機が、「恋人の近くに住みたいから」ということで解雇宣告会社を選んでいます。その後自分で立ち上げたプロジェクトを、その立ち上げ直後に潰し、そのまま会社を辞めています。
そのせいもあってか就職活動が難航するのですが、そこに主人公が推薦状を密かに送って助け舟を出します。
主人公は、そのキャリアで、数々の公演を行っているような有名人です。そして、その推薦状のおかげで、彼女は新しい職を得ます。
このラストは非常によかったです。
人との関わり合いを避け続け、人の解雇の宣告だけを行っていた主人公が、一度関わった人間の就職を支援する。二重の意味で、人間としての変化を見せてくれます。
成長を感じさせるよいラストシーンでした。