映画「英国王のスピーチ」のDVDを2012年の4月に見ました。
2010年の映画で、監督はトム・フーパー、脚本はデヴィッド・サイドラー、主演はコリン・ファースです。
非常によい映画でした。そして、118分なのに、えらいあっという間に終わりました。これは素直にお薦めできる映画です。
● アカデミー賞を獲るべき作品
この映画を見た感想は、「これはアカデミー賞を獲るべき作品だなあ」でした。実際、作品賞を獲っています。
個人的に、アカデミー賞の作品賞は、過去の受賞作から、以下のような作品が獲って欲しいと思っています。
・お祭りとしての大作感があるもの。
・時代の風雪に耐えられるもの。
・ある時代や歴史を象徴的に切り取ったもの。
・普遍的な人間が描けているもの。
「英国王のスピーチ」は、上記の条件を全て満たしています。逆に少し前の作品で「ノーカントリー」「ハート・ロッカー」辺りは、何かちょっと違うという感じで、個人的には不満でした。
「ノーカントリー」の年は「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」の方が相応しいだろうと思いましたし、「ハート・ロッカー」の年は「アバター」の方がよいと思いましたので。
でもまあ、アカデミー賞は、ハリウッドの内輪の互助賞なので、外で何やかや言っても仕方がないのですが。
● 個人の成功と世界のリンク
この映画がよくできるのは、「卑小な個人」が努力して変わることで、「世界にリンクした話」になることです。
主人公は、英国の王族ですが、弟であるために王は継がないだろうと目されている人物です。彼は吃音を抱えており、それを治すために評判のスピーチ矯正の専門家の許に通い始め、トレーニングを重ねます。
そして、上手くいかなかったり、小さな成功で一喜一憂したりします。そういった悩みと喜びは、人間誰もが抱えるものです。
そして、事態が急変します。兄が、恋を取り、王位継承権を捨てたために、主人公が王位を継ぐことになります。
折しも第2次世界大戦前夜。ナチスドイツに対抗するために、王はラジオを通して語り掛け、国民を安心させ、勇気を与え、団結させなければなりません。
しゃべることが苦手な自分が、果たしてそんな大役をできるのか。
この映画の物語は、「私達個人の問題」と「世界の問題」が、上手くリンクしています。こういった話は、普遍的であり、面白く、そして感動できます。
これは、題材選びで成功しているなと思いました。
そして丁寧で上手い脚本だなと感じました。
● 歴史物としての楽しさ
この手の映画の楽しさの1つは、その時代の空気の再現だと思います。
この映画で面白いのは、主人公が王位継承一位ではないため、庶民の住む場所に、護衛を付けずに治療として赴くことです。
おかげで、王族側と庶民側と2つのシーンが描けているのが、珍しかったです。
● 緊迫感とユーモア
緊迫感とユーモア、その2つがこの映画にはあります。
主人公が吃音を出すかどうかの緊迫感、王位を継がされる重圧の緊迫感、迫りくる戦争の暗雲に対する緊迫感。
それと対をなすように、治療師の軽快でエキセントリックな飄々とした様子が面白いです。そして、ヘレナ・ボナム=カーター演じる奥さんの軽やかさも楽しいです。
そういった環境の中で、必死に悩み、迷い、右往左往する主人公。どこか滑稽に見えながらも、それが必死さの表れだと分かるところに、親しみと愛情を感じさせられる。
そんな等身大の主人公だからこそ、映画の最後にスピーチが成功した時に、観客は主人公に強い共感を抱き、祝福したくなる。
映画のラストに、主人公に対して心からの拍手を送りたくなる、そういったよい映画でした。
● あらすじ
以下、あらすじです。ネタバレあり。最後まで書いています。
時は第二次大戦前夜。主人公は、英国王室の王位継承権二位の人物。彼は吃音に悩まされていた。
多くの言語療法士の許に通ったが、彼の吃音はよくならない。そんな折、彼の妻が、市井で評判の治療師を探して、主人公が通うように取り計らった。
その治療師はエキセントリックなやり方で、主人公は最初疑問を抱く。
だが、心の垣根を取り払い、緊張をほぐしていくことで、徐々に上手くしゃべれるようになる。
そんな主人公に、強烈なプレッシャーが圧し掛かって来る。以前から女性関係が奔放だった兄が、恋のため王位継承権を捨てたのだ。
急遽王を継がなければならなくなった主人公は、その緊張で再び吃音に悩まされる。さらに第二次世界大戦が迫って来る。彼は王として、国民にラジオで語り掛ける必要が生じる。
王となり、市井の人間とは距離を置くようになった主人公だが、治療師を呼び寄せる。そして緊張の中、国民のために勇気を持って語り掛けようとする。