映画「みなさん、さようなら」のDVDを一月下旬に見ました。
原題は「Les Invasions barbares(蛮族の侵入)」。人生最後の父親とその息子、そして父親の友人たちの物語です。
カナダの映画で、監督はドゥニ・アルカン。第76回アカデミー賞外国語映画賞を受賞しています。
それなりに面白かったですが、色々と気になるところがありました。
以下、粗筋です。(ネタバレあり。終盤近くまで書いています)
大学教授で女好きの父親は、カナダで癌で死にそうになっていた。父親を反面教師として育った息子は、やり手証券ディーラーとして真面目にロンドンで働いていた。
息子は父親のためにカナダに一時帰国する。そして、父親と対立しながらも、彼の最後のためにできる限りのことをしようと考える。
彼は、父親のために個室の広い病室を用意し、過去の女たちや友人たちを呼ぶ。また、苦痛を和らげるヘロイン療法のためにヘロインを入手する。
息子は様々な方法で父親の幸せな死を演出しようとする。そして父親は末期癌の苦痛で苦しみながらもその演出で幸福な思いをしていく。
そして父親の最後が近付いてきた。
父親は、自分の死を自分で決めたいと考えていた。それは、友人たちに囲まれた幸せな安楽死だった……。
さて、最初に書きましたが、気になる点がいくつかあります。
まず一つめは原題の「蛮族の侵入」です。
本作の父親は歴史の先生なのですが、その父親が入院している最中に9.11のテロが起こります。
それを見て父親は、「これは蛮族の侵入だ」という話をいろいろと展開します。
テロを起したのは蛮族で、正当な文明に対する悪しき敵の挑戦だという論調です。
うーん、歴史の教師という設定でこの発言はどうかなと思いました。あまりにも稚拙。
これは映画の中のほんの一シーンなのですが、それをタイトルにまで付けているのは、いったいどういうことなのかなと少し良識を疑いました。
だいたい、このシーンは映画のシークエンスとしては全く必要のないシーンです。映画の流れからも浮いています。
そして、DVDにはインタビューが付いていて、監督自身が「撮影中に9.11があったので、このシーンを入れた」と語っています。
つまり、当初の予定には全くなかったシーンなわけです。
うーん、監督の思想としては入れたかったのかもしれませんが、このシーンはない方がよい映画になったのにと思いました。
二つめはヘロインの入手です。
息子は父親の苦痛を和らげるためにヘロイン療法を行おうとします。これは医師の友人の薦めによるものです。
それで彼がヘロインを入手しようと最初に行く場所が警察……。
警察に行って、どこでヘロインが入手できるか聞こうとします。
えー、カナダはそんな国なのでしょうか?
なんだか、くらくらしました。
この息子が能天気なだけなのでしょうか?
ちょっとよく分からない行動だなと思いました。
文化の差からくるのか、色々と謎な行動がちらほらとありました。
最後はDVDに付いていた監督のインタビューです。
この映画は、同じ監督による「アメリカ帝国の滅亡」という映画の続編だそうです。キャラクターや俳優も共通とのこと。
こちらは、監督自身の説明によると、「知性はあっても性にしか興味のない非生産的な人たちの話」だそうです。
いったいどんな映画だ。
機会があれば見てみようと思いました。
映画で上手かったなと思ったところを、メモ代わりに書いておきます。
それは、航海に出ていて父親を見舞えない娘(息子の妹)の衛星通信動画です。
序盤に一回、この方法で娘からのメッセージが届きます。そして終盤にもう一回メッセージが届きます。
海に出ていて通信の状態が悪いのでなかなか送信できないという設定です。
この動画を使うタイミングとその内容が上手かったです。
こういう演出方法もあるんだなと少し感心しました。
俳優について少し書いておきます。
麻薬常習者のナタリー役のマリ・ジョゼ・クローズという女優が美人でよかったです。ああいう造形は好きです。
あと、息子役のステファン・ルソーなのですが、有能だか無能だか分からない雰囲気だなと思いました。
設定上はやり手の証券ディーラーなのですが、脚本上の行動がなんだかずれているせいで、よく分からない存在になっています。
そして役者自身が持っているどことなく頼りない雰囲気。
役者もなかなか大変だなと思いました。