映画「クラッシュ」のDVDを九月上旬に見ました。
2004年の作品で、監督、脚本はポール・ハギスです。
「ミリオンダラー・ベイビー」や、「父親たちの星条旗」「007/カジノ・ロワイヤル」「硫黄島からの手紙」の脚本の人です。
今、一番脂が乗っている感じの人ですね。
素直に「上手い」と思いました。
それと同時に、映画じゃないとできないなあとも思いました。
起承転結といった背骨のあるストーリー展開ではなく、ショートエピソードをぶつ切りにして平行的に見せることで、総合的に言葉で伝え難いニュアンスを伝えるといった作品でした。
いわば、映像による交響曲。
善悪や正邪では割り切れない、「今ここにいる人たち」を切り取って、そのまま見せるという感じの内容でした。
人種や階層、差別や人生の理不尽さ。そういうものを、様々な人たちの別々の人生を切り取って、絡ませて見せることで、サラダボウルのような一つの別の物語を生み出す。
非常に手馴れた人でないとできないやり方だなと感じました。
以下、粗筋です。(粗筋的に書くタイプの作品ではないので、触りだけ書きます)
黒人の夫と、白人の妻の車が、追突事故を起こされた。車をぶつけたのは中国系の女性。彼女は、二人が悪いと文句をまくし立てるが、その二人は警察官だった。
警察官の夫は、その事故現場の近くで発見された一人の黒人青年の死体に引き付けられる。
その事件の陰には、その町に住む、様々な人種、階層の人々の、それぞれの人生が少しずつ絡んでいた。
映画を見ていて上手いなと思ったのは、後半の展開です。
人生に行き詰まりかけ、ギスギスした人間だと思っていた人たちが、他人との接触で、少しだけ人生を取り戻していきます。
大きな人生の転機となる人もいれば、ほんの些細な切っ掛けにしかならない人もいます。
そういったチャンスを人生を見つめ直す契機にできるかどうかは、本当にその人の人生次第です。
とはいえ、「人生にはそういったチャンスがあるんだ」と思わせてくれる描写が後半続きます。
しかし、映画では、そういったプラスの転機だけでなく、マイナスの転機も描かれます。善良な人が、闇に落ちていく契機も。
そういった様々なエピソードを交えて、全体として人間というものを描いています。
はっきりと結論を出すことのできないタイプの作品ですが、それを破綻させず最後までまとめているのは実力だなと感じました。
ちょっと技巧的過ぎるので、映画に爽快感を求める人には、向かないかもなと思いました。
面白い映画というよりは、上手い映画という印象でした。