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2008年03月27日 22:25:56
オール・アバウト・マイ・マザー
 映画「オール・アバウト・マイ・マザー」のDVDを二月の上旬に見ました。

 1999年のスペイン映画で、監督、脚本はペドロ・アルモドバルです。

 ペドロ・アルモドバルの作品は、過去には「トーク・トゥ・ハー」(2002)を見ています。

「トーク・トゥ・ハー」も面白かったですが、本作も面白かったです。



 さて、この映画を見た最初の感想は「映画を見る順番は大切だ」です。

 なぜならば、この映画の大きな元ネタとして、二つの映画を見ていることが前提になっているからです。

 その二作とは「欲望という名の電車」(1951)と、「イヴの総て」(1950)です。

 劇中劇として「欲望という名の電車」の舞台が入り、設定として「イヴの総て」の枠組みが一部利用されており、そのことを語り合う台詞が入るからです。

 両方を見ていてよかったなと思いました。

 特に「イヴの総て」は直前に見ていたので危なかったです。

 この二つを見ていることを前提にして、説明何もなしの台詞が入るので、見ていないと文脈や面白みが分からなくなります。

 まあ二作とも有名な映画で古典なので、映画好きなら見ておかないといけない映画なのでしょうが、ハードルの高い映画だなと思いました。



 DVDには監督のインタビューも収録されていました。

 そこで監督自身も言っていましたが、キャラ設定だけ見ると非常にエキセントリックなためにコメディーにしか見えません。それをとてもシリアスなものとして描いています。物語自体は暗いので。

 そのため演出にはけっこう気を使っただろうなと思いました。設定と物語のギャップを感じさせなようにしていかないといけませんので。



 あとどうでもいいですが、インタビューで監督は「昔売れない俳優をしていた」ということを語っていました。

 そのインタビューに出てきている監督の容姿を見て、「まあ売れないだろうな」と思いました。

 なんというか、「もっさり」という形容がぴったりの容姿でした。

 容姿だけでなく、全体から滲み出ている雰囲気とか、そういうものも含めて「もっさり」です。

 監督に転身して正解だったと思いました。



 以下、粗筋です。

 主人公は臓器移植コーディネーターの女性。

 彼女には夫はおらず、思春期の息子が一人いる。ある日、彼女は息子とともに舞台を見に行く。その演目は「欲望という名の電車」である。

 彼女は昔、小劇団に属していたことがあり、そのヒロイン役を演じたことがあった。

 その舞台が終わった後、彼女の息子が、主演女優のサインが欲しいと言い出す。

 その日は息子の誕生日だった。そのため彼女は息子の好きにさせる。息子は女優の車を追い掛ける。そして交通事故に巻き込まれる。

 病院に運び込まれた息子の脳は死んでいた。臓器移植コーディーネーターだった彼女は、そのことを仲間たちから告げられる。

 彼女は移植の同意書にサインして、息子は死亡する。

 そして彼女は、息子の父親にそのことを伝えるために旅に出る。

 場所はバルセロナ。彼女がかつて共にいた仲間たちは数奇な人生を歩んでいた。友人だった男性は胸を付け、女性の姿の男娼になっていた。

 彼女はその友人に、かつての夫の行方を聞く。しかし彼は、その友人の金を持って行方をくらましていた。その元旦那も、胸を付けて女性化している男性である。

 行き先を見失った彼女は、しばらくこの地に滞在して夫に出会うことを期待する。

 そして、部屋を借りて生活を始める。

 そんな折、友人を通して一人の若い修道女と知り合う。彼女は資産家の娘で、家出同然でその仕事をしていた。

 彼女は妊娠していた。その相手は、主人公のかつての夫だった。そして、修道女は、彼を通してエイズを移されていた。

 主人公は修道女に実家に帰るようにと言う。しかし、彼女は主人公の家で過ごしたいと頼む。そして奇妙な共同生活が始まった。

 そういった新しい生活の中で、彼女は一人の女優に接近する。息子がサインをもらい損ねた女優だ。

 そして、彼女に親しくなり、その付き人となる。息子は死ぬ前、母親に女優になりなよと言っていた。

 主人公は、女優の娘の代役として、舞台に出て絶賛を浴びる。そして、イヴのようだと、その娘になじられる。

 そうする内に、修道女の出産の時期が近づいてきた。彼女の周りには、かつての友人や女優たちなど、奇妙な友人関係が築かれていた。

 そして、修道女の出産ととも悲劇が訪れる。その直後、かつての夫が姿を現した……。



 映画は、粗筋を書きにくいタイプの話ですが、実際には流れるようにぽんぽんと進んでいきます。「淀みなく」という形容がぴったりと来るような展開です。

 個人的に印象的なシーンは、主人公の元旦那の登場シーンです。

 映画の終盤まで、引っ張って引っ張っての登場なのですが、その溜めに相応しいシーンになっていました。

 何よりも映像が素晴らしく、そして元旦那の造形もそのシーンにぴったりです。

 どこからどう見ても男が女装した姿なのですが、それが男性的なのに美しい。そのいびつな美が、この映画の奇妙にねじれた人々を象徴しているようで記憶に鮮明に焼き付きました。

 こういった、「ここにはこのシーンが来なくてならない」と分かっていても、それを実際に作るのは大変だと思います。

 登場時間は短いですが、元旦那の存在感は大きかったです。



 あと、この映画で、一番魅力的なキャラは、元男の女性である友人アグラードを演じる女優アントニア・サン・ファンです。

 キャラが立ち過ぎです。

 全体に暗くなりがちな物語なのですが、このキャラ一人で、その暗さを明るさに転換しています。

 それには理由があります。このキャラは、悲惨であるはずの状況を、肯定的に明るく生きているからです。

 悲惨な状況を明るい状況と捕らえている彼女の視点があるからこそ、周囲の暗い状況もそれほどひどく見えてきません。

 こういったキャラの存在は大切だなと思いました。
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