映画「ウェイキング・ライフ」のDVDを十月中旬に見ました。
2001年の作品で、監督・脚本はリチャード・リンクレイター。
「スクール・オブ・ロック」(2003)や、「スキャナー・ダークリー」(2006)の監督です。
結論から言うと面白かったです。しかし、激しく人を選ぶなと思いました。
映像は、「スキャナー・ダークリー」と同じように、実写映画を撮り、それをアニメに描き起こしたものです。
でも、「スキャナー・ダークリー」ほど絵はきれいではありません。かなり前衛的です。
そして、絵が激しくウネウネ動きます。
この絵なのですが、映画の前半では、単に見にくく、前衛的なだけのものだと思っていました。しかしターニング・ポイントで、その表現に意味があることが分かります。
そして、後半は、だいぶ変わった意味でのサスペンスに進んでいきます。
以下、ネタバレ的な話があるので、ネタバレが嫌いな人や、何も分からない状態で見ない人は読まないで下さい。
ネタバレがない方が、よさそうな作品ですので。
あと、この映画は、人によっては、何が面白いのかさっぱり分からない可能性があります。
さて、この映画は、前半に漫然と見ていた時の印象と、中盤のターニング・ポイント以降では、だいぶ印象が違います。
そのことを書くために、まずは粗筋を書こうと思います。
以下、粗筋です。(中盤ぐらいまで書いています)
主人公は、家に帰る途中、交通事故に遭う。
彼は眠りから目覚める。そして、毎日の生活を送る。
主人公は、多くの人から話を聞く。それは、人間の意識について、集合的無意識について、輪廻転生について、夢について、生死についてなどの、精神世界やそれを取り巻く情報だ。
彼は、ある場所で話を聞いた後、立ち去り際に興味のある話を聞く。その話は、自分が眠っているか、目覚めているか、確かめる方法だった。
眠っていると、時計の数字が正しく見えない。そして、自分が眠っているかどうか、きちんと確認するには、部屋の電気のスイッチを切り替えてみるとよい。
自分を取り巻く舞台設定を、自分の意識で変えられなければ、自分は受動的な世界の中にいる。
主人公は、自分が時計の数字を正しく見ることができなくなっていることを思い出す。そして、部屋の電気のスイッチを切り替えてみる。電気は切り替わらなかった。
自分は果たして起きているのか、寝ているのか。また、精神世界の中で、どういった状態にあるのか。彼は、それを探るために、町をさまよい歩く。
ターニング・ポイントは、自分が「現実世界」にいないことに気付くところです。
それ以降、かなり変わった意味でのサスペンスが始まります。
なぜ「変わった意味」と書くかというと、通常の意味での「映画内サスペンス」とは違った「映画と観客間でのサスペンス」が、この映画では提示されるからです。
仕掛けはこうです。
まず、前半部分で「精神世界」系の基礎教養を観客に提示します。これは、統一的な見解ではなく、「様々なバリエーションがある」という、緩い関連性を持った並列的な提示です。
そして、ターニング・ポイントで、「自分がどういった状態なのか」という謎掛けが行われます。
それ以降、主人公はその答えを探しますが、観客は違うサスペンスに巻き込まれます。
「この監督は、どういった解釈の着地点を提示するのか」というサスペンスです。
前半に「並列」で様々な精神世界系の話が提示されているために、「どこを目指しているのか?」という部分が観客には明確に分かりません。
さらに、映画中では、「映画」自体をそういった枠組みとして提示することで、映画を見ている観客も含めた「メタな枠組み」まで、ネタを拡張します。
そういった方法で、「観客を巻き込んだ解釈」も観客に視野に入れさせながら、ネタの着地点をサスペンス状態にしています。
そして結論として持ってきたネタは……。
この監督が「スキャナ・ダークリー」を撮ったのは、「政治的に正しい」と感じました。
「そういうことをベラベラとしゃべる」のならば、撮らないと駄目でしょう。
読書好きの人は、このシーンまで来たら、たぶんニヤニヤすると思いますので、詳しくは書きませんが。
そして、ラストシーンは、正しい答えを提示して終わります。投げっぱなしではありません。きちんと、映画の冒頭で答えは明示されていますし。
また、こういった後半の枠組みがあるために、前半の「会話の連想がそのまま映像になる」という映像表現が「意味のある映像表現」だと後半分かります。
精神世界の中にいるわけですから、そういった前衛的な映像になるのは、非現実的ではありません。主人公の視点で見えている世界なわけですから。
個人的には面白い作品でしたが、人によっては受け付けないと思います。
その理由は三点です。
・情報からの解釈が好きな人でないと楽しめない。
・アニメ表現が前衛的過ぎる。
・字幕の文字が大量にある。
でもまあ、こういった話が好きな人は、見ると楽しいと思います