映画「傷だらけの挽歌」のDVDを二月の上旬に見ました。
1971年の映画で、監督はロバート・アルドリッチ、脚本はレオン・グリフィスです。
現代は「The Grissom Gang」。禁酒法時代の、大味な犯罪一家のお話です。
さて、この映画のDVDを借りた切っ掛けは、町山智浩氏のポッドキャストです。
富豪の娘が誘拐され、その誘拐犯が犯罪一家に殺され、彼女は彼らに横取りされます。そして、その一家の中で、頭が弱い末っ子の慰み者にされます。この映画は、そういったお話です。
娘は自分の命を守るために、犯罪一家の末っ子に愛されないといけない状況に陥ります。なぜならば、その末弟以外は、娘を殺そうと考えているからです。
なかなか面白かったです。
以下、いくつか感想があります。
まず、一つ目は、娘の父親の態度を見て、船戸与一の「山猫の夏」を思い出しました。
誘拐され、当然やられている娘を見て、彼は「死んでくれた方がよかった」といった台詞を吐きます。その様子を見て、この小説を思い出しました。
「山猫の夏」は、月刊ベアーズクラブでマンガ化されていたはずです。小説を読んだ時に、デジャブのように思い出しましたので。
小説とは舞台も設定も違いますが、同じような空気を、映画を見ながら感じました。
二つ目は、犯罪一家の末弟の純愛です。
これは、純愛と呼んでいいと思います。
頭が弱く、友人もおらず、家族にも馬鹿にされている彼なのですが、さらってきた娘に一途な恋と献身を見せ、そして最後には心を開かれます。
単なるストックホルム・シンドロームだろうという見方もあるでしょうが、娘の父親の冷淡さが対比として描かれているために、「愛とは何か?」というものを考えさせられます。
こういった「馬鹿正直で、それしかできないけれど、延々とそれを繰り返すことで、何かが生まれる」といった描写は、ベタだけど鉄板だなと思いました。
三つ目は、禁酒法時代のギャングの大味さです。
終盤の銃撃戦の大味さ加減は凄いです。犯罪一家の母親なんか、「いやっほー!」「ゲラゲラゲラ」とマシンガンをぶっ放し、警官を殺しまくりです。
そうでなくとも大味さは感じました。
犯罪捜査も非常に大味で、さらわれた娘の所在が分からずに数ヶ月が経ちます。
いくらなんでも、今ではもう少し捜査が早いだろうと思います。いや、今でもこの程度なのかもしれませんが。
ちなみにこの映画は、1931年のカンサス州で起きた実話の映画化だそうです。娘さんは、大変だっただろうなと思います。
四つ目は、汗です。
登場人物は全員、これでもかと言うぐらい、いつも汗でびしょびしょです。誘拐された娘も、ナメクジのように汗でびしょ濡れで、なんかエロイです。
最初に「山猫の夏」を思い出したと書きましたが、その理由の半分は、この汗です。
思わずヌラヌラと触りたくなるような汗まみれです。
この汗が、非常に淫靡さと、汚らしさと、焦燥感を醸し出していました。
以下、粗筋です。
富豪の娘が誘拐された。彼女は、金のない貧弱な男達に拉致される。だがそこで終わらなかった。その事件を嗅ぎ付けた犯罪一家が、彼女を奪いに来たのだ。
男たちは殺され、彼女は犯罪一家の家に連れ去られる。そして足取りが掴めなくなってしまったために、身代金だけ奪われて、彼女は監禁され続ける羽目になる。
一家の主である母親は、娘を殺そうと考える。しかし、頭の弱い末っ子は、彼女を自分の友達にしようと考え、殺させないように抵抗する。
母親たちは困るが、末弟もその内飽きるだろうと考え、しばらく様子を見ることにする。
娘は、自分が普通に生きて帰れないことに徐々に気付く。そして、末弟以外は自分を殺そうと考えていることも知る。彼女は、自らの命を守るために、末弟に身を任せることになる。
犯罪一家は、手に入れた金で、賭博場を開く。そして、完全に密閉された部屋を買い、娘を閉じ込め、末弟と夫婦生活をさせる。
数ヶ月が経った。誘拐事件の捜査は遅々として進んでいなかったが、富豪に雇われた探偵が突破口を開きつつあった。
少ない手掛かりを元に、彼は徐々に犯人を割り出していく。
そして、警察たちは、犯罪一家の存在を炙り出し、彼らの住む家に急襲を掛ける……。
直接的な描写はないですが、エロティックな映画だなと思いました。
ちなみに、原題の「The Grissom Gang」は、グリサム一家のギャング団ぐらいの意味です。
どうでもいいですが、主演のキム・ダービーが、下膨れで決して美人ではなかったのですが、二の腕の肉付きとか、汗とか、若さの溢れるムチムチな雰囲気を醸し出していました。
映画は、汚い家と、汗に汚れた人間たちのおかげで、やたらと臭気を感じさせる雰囲気を持っていました。