昨日、たまたま横浜そごうに入ったら、視界の影に、見覚えのある色彩とタッチが飛び込んできました。
「なんだ!?」と思って振り返ったら、「没後25年 鴨居 玲 終わらない旅」という文字が。鴨居玲! 実物の絵を、長らく見たいと思っていた画家の作品展ですと! 思わずその場でのけぞって、そのまま会場に足を運びました。
□没後25年 鴨居 玲 終わらない旅(2010年7月17日〜8月31日)
http://www2.sogo-gogo.com/common/museum/archives/10/0717_kamoi/index.html
私が鴨居玲という画家を知ったのは、「EPSON〜美の巨人たち〜」という番組の、2006年11月11日放送分の「鴨居 玲『1982年 私』」という回です。この回は、ともかく壮絶で脳に突き刺さるようでした。
いわゆる「狂気のようにのめり込む芸術家」というのは、物語では見ても、現実にはなかなか見ることがありません。しかし、そこには、そういった人物がいました。そして、その作品からは、暴風のような圧倒的で歪な感情が噴き出していました。
よく、福本伸行のマンガで見るような「人が壊れていくような負の空気感」。そういったものが、圧倒的な筆力と、重厚な絵柄と、塗り込められた情念で発露しているのです。まさに、絵が「ざわざわ」と囁いている感じです。
これは、実物を見たい。そう思いながらも、なかなか近くで見る機会がなく、長らくペンディングになっていました。今回、横浜そごうで行われたこの展示会を見逃すと、また数年見る機会がなかったはずです。そう思うと、気付いて本当によかったです。
□EPSON〜美の巨人たち〜 - 鴨居 玲『1982年 私
http://www.tv-tokyo.co.jp/kyojin/picture/f_061111.htm□鴨居玲
http://www2.plala.or.jp/Donna/camoy.htm
さて、実物を見た感想ですが、「いやあ、見てよかった」です。本当に、圧倒的でした。ゾクゾクと来ます。
しかしまあ、この人の絵は、家に飾るタイプの絵でも、職場に飾るタイプの絵でもないなあと思います。この人の絵が飾ってある空間は、息が詰まるほどの緊張感が漂います。そして、強烈な威圧感を覚えます。まさに、絵に押しつぶされるような感じです。
絵について、あれこれと文章で書いても仕方がないのですが、敢えて書きます。できれば、実際に見に行って欲しいです。1000円という安い値段ですので。
いい絵はたくさんあるのですが、やはりその中でも「1982年 私」という大きな絵は圧巻です。
晩年、行き詰った鴨居玲が、白いキャンバスの前に、何をしていいのか分からずに座りつくしている絵です。そのキャンバスの周りには、彼がそれまで描いてきた様々なモチーフが並んでいます。その中で、心を抉り取るように眩しい白いキャンバス。そして、憔悴しきって呆然としている鴨居玲の表情。
鴨居玲は自画像の画家と言われ、多くの自画像を残しています。また、絵を描く際には、鏡に自分の姿を映して、それを元に描いていたそうです。そのため、彼の絵の多くは、自画像の変奏だったりします。
つまりこの「1982年 私」という絵は、過去の自分に取り囲まれながら、何も希望を見出せない現在の自分が、ぽつんと白いキャンバスの前に座っているというものなのです。これは、魂を抉るような絵です。
他にもよい絵がたくさんあります。まだ見に行っていない人は、是非行くことをおすすめします。