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2013年08月30日 13:32:11
映画「パシフィック・リム」を先週見てきました。
2013年の作品で、監督はギレルモ・デル・トロです。
いやー、面白かった。怪獣V.S.ロボットを、実写でここまで徹底的に描いた映画はないのではないでしょうか。
何よりも、監督の怪獣愛とロボット愛が半端ないです。敵の怪獣は、英語で「カイジュウ」ですよ。対怪獣用の防壁は、看板にでかでかと「アンチ・カイジュウ・ウォール」って書いてありますし。
そして、怪獣はずんぐりと着ぐるみっぽいです。怪獣は海からやって来て、ロボットがその怪獣を迎え撃ちます。冒頭、海に漂う漁船が怪獣に出くわしたりしますし。ゴジラ・リスペクト半端ないです。
その怪獣が、ロボットとプロレスをします。ロボットの肘にロケットブースターが付いていて、「ロケット・パンチ!」って感じで、ドゴン!!と撃ち込みます。
そのロボットを操縦するのは、中に乗った人間で、マスタースレイブシステムで動かします。コクピットがやられると、外から攻撃されたりします。
もう全てが「分かっている」。何というか、ギレルモ・デル・トロ万歳という感じの映画でした。
アニメ、特撮が好きな人は、大画面で見ておかないと絶対後悔する映画だと思いました。というか「見ろ!」という感じです。
● エヴァンゲリオンとの相似
さて、映画を見ていく内に思ったのは、エヴァンゲリオンとの凄まじいまでの被りっぷりです。
特撮好きの監督が、本気で自分が作りたいものを作ったら、ここまで被るものなのかというぐらいの被りっぷりです。まあ、順番からして、趣味からして、ギレルモ・デル・トロがエヴァを見ていないわけはないと思いますが。
以下、似ている部分を列挙していきます。
・巨大な敵が海から攻めてくる。
・超国家組織が人類の防波堤になる。
・主要な国々が、巨大ロボットを所有している。
・ロボットとシンクロして戦う。
エヴァの使徒が、パシフィック・リムの怪獣です。
エヴァの第3新東京市が、パシフィック・リムの香港です。
エヴァのエヴァンゲリオンが、パシフィック・リムのイエーガーです。
エヴァのシンクロが、パシフィック・リムのドライブです。
もう、被りまくり。
そりゃあ、細部は違うし、物語の方向も違うし、ラストも違うのですが、これでもかと似通っていて笑えました。まあ、全然違う作品なのですが。
あと、敵が異次元の割れ目から出てきて、そこに逆に攻めていく話というのが「戦闘妖精雪風」をものすごく思い出しました。
まあ、雪風もアニメ化されているので、監督は見ているかもしれないですが。
● 端折り過ぎ
2時間の映画に無理矢理まとめていますが、これは連続ドラマでやった方が適切なのではという内容です。ものすごい詰め込みっぷり。
密度が半端なく濃く、ちょっと早過ぎだろうという展開も多いです。巨大ロボットは、メインの4機以外は顔見せだけだし、メインの4機の内の2機も、怪獣に「瓦の試し割り」みたいにやられてしまいますし。
エヴァンゲリオンぐらいの話数とは言わないですが、もうちょっと長い尺で、見たかったなというのが正直な感想でした。
まあ、こんなもの、いきなり連続ドラマで作らせてくれと言っても、無理でしょうが。
● 人間ドラマ
怪獣ロボット映画というのでそれほど期待していなかったのですが、さすがハリウッド、人間ドラマの部分をきっちりと押さえていて、流石だなと思いました。
メインのキャラクター達に、それぞれ熱い「決意ポイント」と「泣かせる見せ場」が用意されています。ぐっときます。
SF的考証とか、歴史公証とか、現実世界との整合性で誤っていても、ここだけは、きっちりとしている作品がハリウッドにはよくあります。
邦画は、この部分が決定的に弱い作品が多いです。ハリウッドは、脚本にお金と人を掛けるしなあ。専門家達が、きちんと綿密に事前チェックするし。
また、人間ドラマでは、主人公のセットアップが上手いなと思いました。
序盤
・巨大ロボットに乗り込み、双子の兄と怪獣を撃退していた。
・巨大ロボットの頭部が破壊され、兄が怪獣に食われる。意識を共有していた主人公はトラウマになる。
・主人公は単独帰還後失踪する。
序盤2
・イエーガー計画から各国が手を引き、司令官は独立して民間団体として再スタートする。
・司令官は主人公を探す。そして、アンチ・カイジュウ・ウォールの建設作業員として人目を忍んでいた主人公を発掘して、基地に連れ帰る。
・基地には、イケイケの若手イエーガー搭乗員がいる。彼は、主人公の敗北が、イエーガー計画を破綻させたと考えていて敵対する。
・基地には、イエーガーの搭乗員を目指している、司令官に育てられた女性がいる。主人公は、兄の死がトラウマになり、再び誰かとつながることを恐れる。
・主人公は、人類を守るために、彼女とともにイエーガーに乗り込む。主人公は、血気盛んな若者ではなく、彼女を導く師の役割も果たしながら、彼女と心を通わせていく。
映画の冒頭で主人公の兄が死ぬことで、彼は乗り越えるべき精神的課題が突き付けられます。
映画を通して、主人公は成長して変化しなければならないことが明示されるわけです。これはシンプルだけど上手い設定だなあと思いました。
● 設定の伏線っぷり
この映画には「それは、どう見ても、見栄えだけで考えただろう」という設定が多くあります。まあ、元が怪獣映画+ロボットアニメなので。
その最たるものが、ロボット関係の設定です。
「カイジュウが出た!」→「人類は巨大ロボットで対抗することにした!」
なんで?
この部分には、「やっぱり、ロボットはないよなあ。アンチ・カイジュウ・ウォール作ろうぜ!」→「10分で突破される」という、壮絶な「理由づけ」が用意されています。
理由づけにも、なっていないですが「だからロボットじゃないと駄目なんだよ!」という、熱い叫びが伝わってきます。
「ロボットは肉弾戦だ!」→「なんで遠隔兵器を使わないの?」→「そこは突っ込んではいけません!」
ここは、完全にスルーでした。まあ、仕方ありません。エヴァンゲリオンだと、ATフィールドという答えが用意されていましたが、パシフィック・リムにはありませんでした。
そして操縦方法にも謎の設定が出てきます。
「ロボットと脳波をシンクロして動かす!」→「1人で動かそうとすると、脳がバーストする!」→「じゃあ、右脳と左脳担当に分かれて2人で動かそう! 記憶と意識を直結するドライブという技術の登場だ!」
なんで?
絶対絵面だけで考えているだろうという謎設定の登場です。
この「ドライブ」と「2人で動かす」という設定はSF的根拠が皆無なのですが、これが物語の方には、ものすごく上手く作用していて驚嘆しました。
まず、「2人で動かす」ということで、兄弟、親子、夫婦、恋人といった、シンクロ率が高い人達がパイロットに選ばれます。その人間ドラマが、放っておいても描けます。
さらに主人公は冒頭、双子の兄を敵にやられて、パートナーを失います。その代わりに、ある女性とコンビを組むことになるのですが、「意識と記憶の共有」があるために、主人公視点のまま、彼女の過去を描けます。これって、けっこう凄いことです。
さらに、脳を直結して意識を共有する「ドライブ」を使って、人類側の科学者が、怪獣と意識を共有して、敵の情報を探ることを思い付きます。これには、納得のどんでん返しも用意されています。
こういったように、設定だけ見ると謎の設定が、妙に物語に上手く作用していて、「もうどうでもいいや!」と思えるような疾走感がありました。
何というか「力技万歳」という感じでした。
でもまあねえ。冒頭のことだから書きますが、主人公、兄を失った後、イエーガーを1人で動かしていますよ……。ねえ?
● ロボットの表現
でかい。重い。強い。
方向性としては、ガンダムよりは、鉄人28号。もしくはゲッターロボとかなのかなあ。
プログラムを見ると、監督が一番好きなロボットアニメはパトレイバーと書いてありましたが。
まあ、ともかく、重量級のロボットが、鉄の塊としての拳を振り下ろして、怪獣を殴り倒します。
これを見るためだけに、映画館に行くべきだと思いました。
欲を言うと、もっと長い時間にして、他のロボットの活躍も見たかったです。
● 怪獣の表現
着ぐるみを完全実写化。何を言っているか分からないかもしれませんが、まさにそんな感じです。
また面白いのは、敵がだんだん巨大になり、出現頻度が上がっていくことです。数学者が、「ある時点で2体登場する!」と話して、人類終末へのカウントダウンが示されます。
あと、異世界から攻めてくる怪獣が「なぜDNAなんだよ!」とか、たぶん突っ込んではいけないことなのでしょう。突っ込みたくてうずうずしました。
まあ、突っ込んだら負けの映画なのだよなあと思いました。面白いは正義です。
● 監督は大変だ
久しぶりに、映画のプログラムを買って読んだのですが、出演している俳優がことごとく、「怪獣やロボットに興味なし」で笑えました。
いわく、「ロボットや怪獣みたいな子供の話には興味がないんだけど、脚本の人間ドラマにひかれて出演した……」
監督は、そういった俳優を率いて、自分が望む怪獣ロボット映画を作り上げていったわけです。頭が下がります。監督は大変だ。
● スタッフロール
最後まで見た方がよいです。途中で、話の続きもあります。
● あらすじ
以下、あらすじです。冒頭だけ書いています。
太平洋の底に異次元の穴が開いた。そこから怪獣が現れ、沿岸部に侵攻を開始した。人類は巨大ロボットを作って対抗することにした。
しかし、ロボットの操縦は1人ではできない。2人で心を通わせる必要がある。主人公は、双子の兄とともに搭乗員となる。
だが、徐々に巨大化、凶悪化する怪獣のために、コクピットが破壊され、兄を食べられてしまった。意識と記憶をリンクした状態のままで。
主人公は失踪して時が流れる。そこに、かつての司令官がやって来る。民間団体になった彼らは、人類を守る最後の防波堤として戦っていた。主人公は、自分に何ができるのだろうかと半信半疑のまま、司令官に従い、最後の基地がある香港に向かった……。