映画「選挙」のDVDを2012年の5月に見ました。
2006年のドキュメンタリー映画で、監督・撮影・編集は想田和弘です。観察映画第1弾ということで、延々と1人でカメラを回して、後で編集しています。
これが、なかなかよかったです。淡々と選挙を撮っているだけなのに、何故か面白いです。ナレーションもテロップもないのに2時間飽きません。見事な編集だなと思いました。
● どんな映画か
この映画は、想田和弘という監督が、対象に向けて延々とカメラを回して、その映像を編集して映画にした作品です。
このやり方のシリーズは観察映画ということで、何本か作られています。
そして今回題材としているのは「選挙」です。小泉改革時代に、補欠選挙で落下傘候補として出馬することになった新人候補の選挙開始から当選までを撮影したものです。
● なぜ面白いと感じるか1 キャラバン形式
この映画は、ナレーションもないし、テロップもないのですが、すこぶる面白かったです。
なぜ面白いと感じたかは、選挙という構造自体に、話の流れがあるからだろうと思いました。
映画には、いわゆる「キャラバン物」といった作品があります。スタート地点から移動を始めて、ゴール地点で映画が終わるような形式です。クリント・イーストウッドなどは、この形式の映画を多く撮っています。
この形式のよいところは、移動することでどんどん舞台が変わり、事件などが起きて、問題や登場人物があぶりだされていくことです。
選挙というのは、そういった旅形式が、地図上ではなく、時間軸上で進むような題材です。つまり、放っておいても様々な事件があり、登場人物が掘り下げられます。
つまり、カメラを回しているだけで、何かが起きる対象なわけです。
● なぜ面白いと感じるか2 異文化体験
この映画には、そういった時間軸上のキャラバン形式以外に、非常に面白い点があります。それは、日本の選挙や政治家の内幕を描いていることです。
映画では、誰も見向きもしない街頭演説、名前を連呼するだけの選挙カーといったお馴染みのものから、創価学会の人間が自民党の選挙を助ける様子や、有名政治家による応援演説、政治家の先輩達との上下関係、補欠選挙ということで今回だけ応援してくれる同じ区の自民党員など、様々なエピソードが出てきます。
テレビの報道には出てこないような、こういった小さなエピソードが、飽きる間もなく繰り出されてきます。そして、「選挙は本当に密度が濃い」という印象を与えてくれます。
● なぜ面白いと感じるか3 感情移入ポイント
そして何よりも面白いのは、主人公である山内和彦が、右も左も分からない新人候補なところです。
選挙に立候補した候補者でありながら、実質的にはリーダーではなく、新人営業マンのような扱いで、周囲に頭を下げ続けるしかない存在。
立場的には「自民党が、ちょうどよい候補者がないので白羽の矢を立てた」だけで、本人はまさか自分が立候補するなどと思っていなかったという状態。
彼は、叱られ、指導され、責められ、奥さんに愚痴を言われ、ほとんど観客と変わらない視線から選挙を体験します。
「観察映画」と言っていながら、明確な感情移入ポイントがある。
それが、この映画の分かりやすさと面白さにつながっていると感じました。
● あらすじ
以下、あらすじです。
時は小泉郵政改革時代。川崎市議会議員補欠選挙に、自民党推薦の40歳の若い男が立候補した。
彼は、東京で趣味のコイン商を営んでいた。自民党員ではあったが、特に選挙に出るつもりで入っていたわけではないという。それが、候補者不足の自民党躍進時代に、ちょうどよい人間として声を掛けられることになった。
彼は、選挙に合わせて川崎市に引っ越すところから始める。そして、先輩議員や、選挙参謀の言うがままになりながら、選挙戦の準備をしていく。
全てが初めて体験することで、あらゆることで指導を受けなければならない。当然不満もあるが、何も分からないので仕方がない。
そして、仮に当選したとしても、先が分からない。
今回は補欠選挙として応援してくれる地元の自民党議員達も、次の選挙ではライバルになる。
選挙直前に引っ越してきたので当然「地盤」もない。芸能人や二世議員というわけでもないので「看板」もない。今回の選挙で、金はほぼ使い果たしているので「鞄」もない。
彼はそういった暗中模索の中で、滑稽とも思える「どぶ板選挙」を展開していく。