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2010年06月10日 21:46:22
 映画「ハート・ロッカー」を劇場で、四月上旬に見ました。

 監督はキャスリン・ビグロー、脚本はマーク・ボールです。

 緊張感溢れる映画で、面白かったです。



● 様々な爆弾処理

 さて、この映画は、イラクのバグダッドで活躍する爆弾処理班が主役です。

 脚本のマーク・ボールが綿密な取材を行っただけあり、リアリティが溢れており、「こうなっているのか!?」と驚くような内容が多かったです。

 まず、映画の冒頭の爆弾処理シークエンスからして、新しい情報がわんさかと出てきます。

 まずは、遠隔ロボットでの爆弾処理から、映画は始まります。そして、このロボットにトラブルが生じた後は、チームリーダーが対爆スーツを着て、解体に向かいます。

 この対爆スーツが、宇宙服系のパワードスーツっぽい姿で物々しいです。このスーツは、ケブラー繊維製の分厚い鎧です。ただし、指先は、解体作業をするために出ています。

 この対爆スーツを着ていれば、爆弾を食らっても大丈夫かというと、ある程度の距離なら死なずに済むという程度でしかありません。また、指先が出ているので、指を失いやすいです。

 そのスーツを着てリーダーは、チームのメンバーが周囲を警戒する中、爆弾に向かいます。

 そういった緊迫した空気のなか、周囲の建物の入り口で、携帯電話を取り出す男がいます。メンバーは恐怖を顔に浮かべて、銃口をその男に向けます。男は必死に言い訳をしたあと、携帯電話を操作します。

 爆弾は、いわゆる時限爆弾ではなく、携帯電話による遠隔爆弾だったのです。チームリーダーは、間近で爆弾を爆破させられ死亡します。

 いきなり冒頭から、ハードな展開と、圧迫するような緊張感で話が進みます。

 そして、映画は、新しいチームリーダーが来たところから、再びすぐに、次の「爆弾処理」に突入していきます。

 映画では、即席爆弾や人間爆弾など、様々なタイプの爆弾が出てきます。

 映画のプログラムを読むと、この爆弾の種類は、実際にイラクで「いたちごっこ」で進行した爆弾の変遷を、ある程度反映しているようです。

 携帯電話による爆破が流行り、妨害電波を使うようになると、有線の爆弾が流行りといった具合のようです。

 そして、使われるのは、IED(Improvised Explosive Device)と呼ばれる即席爆弾です。

 不発弾などのあり物を利用しての爆弾らしく、使う側は簡単に入手して手軽に使用できるけど、防ぐ側は有効な手段がなくて大変なようです。



 しかしまあ、映画はまさに「プレッシャーの嵐」です。

 いつ誰が死んでもおかしくないし、実際死ぬし、そういった中での作業は、まさに「死ぬために戦場に立たされている」状態です。

 まさに身の毛もよだつような状態で、自分の生死を自分で選べず、一部の人の都合で決められるという現状を如実に反映しています。

 個人と個人の殺し合いはともかくとして、戦争は、ある誰かの利益のために、関係ない多くの人々が殺し合いをさせられる状態です。

 これは他人事ではなく、日本でも今後数十年で起こりそうなことなので頭が痛いです。



● 串団子状のシナリオ

 映画は、串団子状のシナリオでした。いくつかの爆弾処理の話が、数珠繋ぎになっている形式です。

 いちおう、「ブラボー中隊、任務明けまであと○○日」とテロップが出て、時間の進行が示され、チームの人間関係に微妙な変化が出ますが、基本は無関係の爆弾処理が連続して起こる形式です。

 なので、ドラマで引っ張るというよりは、爆弾処理の緊張感で引っ張るという物語でした。



● 「アバター」との賞レース

 さて、この映画は、アカデミー賞の賞レースで、「アバター」と争いました。アバターの監督と、本作の監督は元夫婦。そういったゴシップ的な面でも、注目されていました。

 世間での評判では「アバターはシナリオが弱い」という話が多かったです。確かに「アバター」は、深みのあるシナリオではありません。でも、「ハート・ロッカー」のシナリオが良かったかと言うと、それも違うだろうと思いました。

 前述したとおり、「ハート・ロッカー」のシナリオは、爆弾処理の数珠繋ぎです。決してシナリオがすごくよいわけではありません。新しい映画ではあるのですが、アカデミー賞的な「王者」と感じる映画ではありません。

 過去のアカデミー賞受賞作品の多くは、「その年の王様」的な、「全ての面で秀でていて、王者の風格を漂わせる映画」がけっこうあります。

 私が想定している映画は、以下のようなものです。

・風と共に去りぬ
・カサブランカ
・イヴの総て
・戦場にかける橋
・ベン・ハー
・アラビアのロレンス
・サウンド・オブ・ミュージック
・ゴッドファーザー
・タイタニック
・ロード・オブ・ザ・リング

 そういったきらびやかな映画に比べると、「ハート・ロッカー」はいささか物足りない気がします。誰もが大満足するようなタイプの映画ではないと思いますので。

 同じような感想は、「ノーカントリー」の時にも抱きました。

 そういった意味では、「ハート・ロッカー」よりは「アバター」の方が、私の持っているアカデミー賞の印象に近い作品だなと感じました。



● 戦争ジャンキー

 さて、シナリオについて補足しておきます。主人公の内面の展開についてです。

 たぶん、私がこの映画のシナリオについて、あまり評価が高くないのは、「爆弾処理の数珠繋ぎ」ということと含めて、「人間関係が離散する」からだと思います。

 通常、映画のシナリオは、登場人物が劇中で理解を深めていき、最終的に「収束する」ことで「化学変化」が起きます。

 この映画の主人公は、完全なる戦争ジャンキーで、チームのメンバーと、映画が進行することで、分かり合おうともせずに離散します。

 なので、人間関係によるカタルシスがありません。またシナリオも、そういった展開に向けて組み立てられています。

 そのために、シナリオが「人間ドラマ」という面で、非常に手薄に見えます。

 でも「リアル」という面から見れば、リアルなのかもしれません。

 実際の戦場では、戦争ジャンキーでもないと、爆弾処理の現場で長くやっていくことは出来ないだろうと、この映画を見て思わされます。

 そう感じるということは、映画のシナリオは、目的を遂げているのかもしれません。



● 粗筋

 以下粗筋です(詳しく書くと、各爆弾処理のネタバレになるので、流れだけ書いています)。

 イラク、バグダッド──。アメリカ軍の爆弾処理班、ブラボー中隊のリーダーが爆死した。

 新しくやって来たリーダーは、有能だが、型破りで、人間関係を重んじない男。彼は生死の感覚が麻痺しており、嬉々として死地へと赴く。

 チームは三人で構成されていた。サブリーダー格の男は、冷静沈着で、沈思黙考タイプ。彼は、チームとしての仕事を重視しないリーダーと対立する。

 もう一人は若手の男で、彼は死の重圧からPTSDになりかけている。

 チームは、次々と起こる爆弾処理の現場に赴く。そして、死の重圧を受けながら、解体作業をこなしていく。

 中隊の任期明けまでは三十八日。その間、チーム内の不和は高まっていき、メンバーも傷を負って倒れていく……。



● 体調不良

 実はこの映画を見に行った際に、体調不良に陥り、かなり苦しい中で映画を見ました。

 具体的に言うと、空調で悪寒がして、下痢と便秘が同時に来ていました(腹を下しているのに、便秘で便が出ないという状態。非常に苦しい)。

 昔から空調は苦手です。この映画を見た時は、四月頭なのに冷房が入っていて、その空気がもろに当たる席だったために体調を崩しました。

 映画館に行くと、何回に一回かは、こういった状態になります。大画面は嬉しいのですが、空調はどうにかして欲しいなと思います。
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